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 上野山さんからのリポート

  口和深 (和歌山県)
   2001/01/13

口和深の位置

 

平成13年1月13日、本年初めてのグレ釣りは口和深でした。
グレネットの管理人の下山さんと以前から釣行を約束していたのがようやく実現となりました。
日本海側に住んでいる私にとって、1月から3月はほぼシーズンオフなのですが、下山さんの誘いで今回は初めて南紀で竿を出すこととなりました。

敦賀を午後8時30分の電車に乗り、尼崎で下山さんと合流して口和深の谷口渡船に着いたのは翌日の午前3時前です。
釣り場まで、家を出て6時間半くらいかかりました。
2,3日前からすさみ周辺が釣れているということで、下山さんは最初から口和深に行くことに決めておられたようです。

フィッシングショップオザキさんで、ボイルのオキアミを6kgづつ買いました。
下山さんは集魚材を混ぜないと言うことなので私もオキアミのみとしました。
エサを見てみるとかなり小さいしっかりしたオキアミです。
これなら5号のハリでもちょうど良いくらいの大きさでした。
"大きいのは深めやで、カモメに糸をひっかけんように注意してや"とアドバイスを受けて渡船屋に向かいました。

谷口渡船に着いてみると車が3台ほど止まっていました。
渡船店の仮眠所が空いていましたのでそこで寝ていたのですが、周囲が騒がしくなって5時過ぎに起きました。
釣り客は20人ちょっとのようです。

渡船屋の奥さんが"昨日はボーズ無しやったで"とほかのお客さんと話しています。
"何人いてボーズ無しかなんですかね。"などと私は下山さんと話していたのですが、北の風が強いのが気になります。
6時を過ぎて皆さんが港に移動しはじめたので、我々も荷物を持って、港まで歩いていきました。
風が強いので、キャップタイプの帽子をやめて毛糸の目出し帽にしました。
これですと首筋が暖かいので風の強い日はこのタイプにします。

周囲が薄明るくなって、渡船がやってきました。
我々は渡船を待っていた列の後の方から乗船したのですが。
先に乗った人がホースヘッドに立っているのにはびっくりしました。
後ろからつめて乗らないと、ホースヘッド周辺の荷物が歩くのにじゃまなのにと思ったのですが、これがこの地域の流儀なのでしょうか?
ホースヘッドに人が7,8人立っているので、前が下がって変なバランスの船はゆっくり港を出て左の大島から着けていきます。
前に人が立っているので、船長から磯が見にくいと思うのですが何とか着けています。

我々は後ろにいたのですが下山さんが"次の次に着けるソバ坪に乗りましょう"といって前に出ていきます。
前に行くとまだヘッドに5,6人立っていましたが"次ソバ坪下ります"とかき分けて前に出ました。
さすがに船長も"前見えんから下りる人以外はすわっとって"とマイクで怒鳴ります。
ようやくヘッドに立っている人がしゃがみましたが、礒に下りるでもなく、道具を渡す手伝いをするわけでもなく、単にいい場所に下りたいというので前に立っているというのはいかがなものでしょうか。

"ソバ坪"は二人乗るといっぱいといった感じの小さな磯で、道具をおくスペースだけが水平で後は急角度の前下がりで、岩がつるつるしていてスパイクの歯が立ちません。
正面30mくらい離れたあたりに左右に大きな根が伸びています。
足下右側にも根が張り出しているようです。

"魚をとるのは足下の左側の根がすこし切れたあたりですよ。
浅い場所なのでタナは2.5ヒロくらいでやってはどうですか"という下山さんのアドバイスです。
時々背中から、猛烈な風に吹かれますので、バランスを崩すとそのまま海に落ちそうです。
道具をまとめておき、ゆっくり仕掛けを作ります。
手がかじかんでうまく糸を結べません。

私は1号のシマノの磯竿に3号の道糸、ハリス2.5号に小磯針7号、3Bの円錐ウキとしました。タナは2.5ヒロです。
下山さんの仕掛けを見るとオモリもサルカンもありません。
つけているウキも私の3Bのウキに比べて半分くらいの大きさです。
ハリスを長く取り、ハリスにウキを着けているようです。
竿は1.5号だそうです。
私の仕掛けから見ると抵抗が少なくスマートな仕掛けに見えます。

私は道具の横に腰掛けて釣りましたが下山さんは右側の少しくぼんだところに足を着けて立って釣りをしています。
私がまだハリを結んでいると正面右側のシモリの横あたりを釣っていた下山さんに1遠目からアタリです。
自分で取り込むというので、タモを渡すと簡単に取り込んだのは33cm位のグレでした。
私も遅ればせながら釣り始めたのですが、私にはアタリが出ず、下山さんはすぐに25cm位のグレを追加しました。
和歌山では日本海側の仕掛けではアタリが出ないのかと、焦る気持ちが黒雲のようにわき起こってきました。

しかし、すぐにシモリの前を流れていた私のウキが沈みました。
あわせると強烈に下に潜ります。
下山さんの釣ったグレを見ていたので、かかったのが30cm位のグレだろうと思っていたのですが竿がのされました。
あわててレバーブレーキをゆるめて糸を出したのですが、前下がりの礒で座って釣っていたので体勢が悪すぎます。
糸が出ながら根ずれで切れてしまいました。
またもや朝一番のバラシです。

右前に見えているシモリの向こうに魚が回ったようでした。
立って釣っていればやりようがあったかもしれないと思っても後の祭りです。
毛島以来朝一番のバラシは神様が与えた試練でしょうか。

それにしても下が見えるような浅いところで、こんな強烈なアタリがあるとは思ってもみなかったことです。
下山さんの釣ったグレを見ていて油断しました。
"気にしないでください。かかったら磯の前に出て左前のシモリの切れ目に魚を誘導して取り込んでください。
40オーバーも出ますから注意してください。"とアドバイスされました。

私は切れたハリスを取り替えましたが、相変わらず背中を強風が押しますので、とても立って釣る気になりません。
仕掛けを取り替えたところで、竿を持って磯の前に行ってみましたがとても立って行けそうにありませんでした。
取りこみが大変な場所です。
また、下山さんが魚をかけました。
私の後ろを回って礒の前に出て竿を左側に倒してやりとりをしています。
一連の動作がとてもなれた動きに見えました。

36cmくらいのグレが浮いたのでタモを渡そうとして横をみるとタモがありません。
"タモありませんよ"というと下山さんは不思議そうな顔をしましたが。
タモが無くなっているのは現実です。
どうやら強風で落ちたようです。
仕方がないので私が下山さんの竿を持って、下山さんは磯の左側に下りてハリスをつかんで取り込みました。

私は電車で来たのでタモを持ってきませんでした。
まだ8時過ぎというのに、納竿の2時半までタモ無しで釣りをすることになりました。
大きいのが来たらどうしようと思いました。
えてしてこういうときに大物が来て抜けずにバラスものです。

私は35cm位のグレは抜いてしまおうと思い、グレスペシャル2号に竿を変えました。
下山さんの1.5号の竿から見ると1.5倍くらい頑丈そうな竿です。
2週間前に毛島ではこの竿で魚と引っ張り合いをして、3号の道糸と、3号のハリスを切っているのでやりとりの加減はだいぶつかんでいました。
毛島のバラシがこの後で役に立ちました。

10時頃にようやく右側を流れていた私のウキにアタリがありました。
こんどはシモリから少し沖めでかかつたのと、魚が30cm位でしたので難なくごぼう抜きにしました。
30cmのグレではあまり竿も曲がりません。
ようやく和歌山で1匹目のグレを釣りました。
その後二人ともぼちぼち30cmから36cm位のグレがかかり、12時頃には二人で10匹くらい釣りました。
しかし朝のような強烈なアタリはありませんでした。

1時頃になってアタリが遠のきましたので、下山さんが竿を置き、礒の左側を下りてドンゴロスに水をかけました。
朝に比べると波も穏やかになり潮も引いているようです。
ドンゴロスが魚でいっぱいになってきて、だいぶん膨らんできたなと横を見ていると、誰かが私の竿を引っ張りました。
私と下山さん以外に礒には誰もいません。
魚が竿を引いていたのでした!!

前を見るとウキがありません。
竿ものされ続けています。
頭の中で"竿をたてろ"、"ブレーキ解除"、"糸を出せ"、"態勢を整えろ"、"取り込みは左前"などの号令がごっちゃになって発令されます。
またもや大油断です。
竿をのされながらレバーブレーキをゆるめて糸を出しますと魚は左側に動いています。
重い引きです。
リールが逆転してどんどん糸が出ていますが、魚が左前に動いて右側の根から離れていくので、これはとれるかなと思いました。
しかしまたもや糸を出しながらハリスから切れてしまいました。
この間3秒くらいでしょうか、凝縮した時間でした。

完全に魚に先手を取られていたので糸を出すのはやむを得ないのですが、浅い磯で強引に取り込むか、糸を出すかの判断は瞬間にしなければならないので悩むところです。
しかしよそ見した一瞬に大物がかかるとはなんという試練でしょうか。
私には大物のバラシを打破することは出来ないのでしょうか。
この後しばらくアタリが遠のきましたので"また、ドンゴロスに水をかけましょうか、そうすればアタリが出るのじゃないですか"と下山さんにからかわれました。

2時頃になり"もう30分ですね。
もう1匹くらい釣りたいですね"と下山さんが声をかけました。
"そうですね"と私はたびたびの大物バラシで力無く答えました。
下山さんにアタリがあったようです。
"これはとれん!"と叫びながら、右のシモリから強引に魚を出そうとしていますが、魚の引きが強くてこちらを向かないので、引っ張り合いをしているうちに根ズレでハリスが切れたようです。
"右のシモリで大きい魚がかかるととれんね"と声をかけると。
"何とか魚が沖に出れば勝負になるんでしょうけど、沖に出ますかね"というようなことを下山さんはハリスを直しながら話しておりました。

私はなんのきなしに仕掛けを右のシモリ際に投入したのですが、しばらくしてウキが沈みました。
軽くあわせるとあの大物の重い引きが伝わってきます。
"糸出しますわ"と言って私はまたもやブレーキをゆるめて磯の前におそるおそる下りていきました。
今回はまだ魚がついています。
最初に引っ張り合いをしていないので、ゆっくり糸が出ていく感じです。
礒の先端に出て竿を左側に突き出します。
なるべくシモリから離すためです。

前下がりの磯なので中腰になってのやりとりで力が入りません。
"上野山さんここまで来たらゆっくりゆっくり。竿は立てたらだめですよ。"と下山さんが声をかけてくれます。
リールをゆっくり巻き始めると魚がついてくる感じです。
しかしすごく重いので竿で少しひいては2,3回巻くといった感じです。

かなり時間がたったような気がしましたが実際は2,3分かもしれません。
ウキが見えてきました。
ウキの位置と糸の角度を考えると右のシモリの前に魚がいるようです。
早く魚を見たい、一気に勝負したいという気持ちとこれからが一山あるはずだという今までの経験が混ざり合って、どきどきしてきます。
思わず息が止まってしまいそうです。

ウキが見えてから魚は急に右のシモリにつっこみました。
ここは出してはいけないと竿の角度に気をつけて、力でためます。
竿が満月にしなり、風がふいて糸がキーンと鳴きますがここで糸を出しては地獄行きです。
竿でためていると今度は足もとに向かってつっこみます。
竿を磯の前に突きだし手前への突進に耐えます。

"こんなに引くのはコロダイかもしれんな。"と下山さんが声をかけます。
ようやく魚の力が弱り右側に移動し始めました。
竿を立てようとしましたがなかなか浮きません。
水面近くで魚が反転しました。
グレです!!!
それも久しぶりの大型!!
急に大事に大事にと弱気になりそうです。

しばらくして何とか正面で魚が浮きました。
下山さんに"タモ!!"と叫ぶと。
"タモはない!!"という答えです。
タモがないのをすっかり忘れていました。
血の気が引きそうです。
一瞬にして天国から地獄に堕ちた気分です。
なんという試練の連続でしょうか。

"僕が取りますわ。"といって意を決したように下山さんが磯の左側に下りていきます。
私はグレがかかったまま待っていました。
この間スローモーションのようにゆっくり時間が流れていきます。
このシーンはきっと後で夢のなかで見るだろうな、などとよけいなことを考えたりしていました。
グレはかなり弱っていてもう反撃の力はないようでしたがかなり時間がたっているので口が切れないかが心配です。

下山さんに磯の先端に行ってくれと頼み、波を見てグレを誘導します。
下山さんにグレを近づけたそのとき、下山さんが脚を滑らせました、膝の下まで海に浸かっています。
またもや大ピンチです。
"大丈夫ですかと"声をかけますが下山さんは下を向いて両手を動かしています。
下山さんにグレを近づけてからかなり時間がたっているので。
もしかしてハリスが磯に絡んだのではと余計なことを心配します。
魚は下山さんの陰に隠れて見えません。

しばらくして下山さんがこちらを振り向くとグレの口に手を入れながら、両手でしっかりグレを抱えていました。
"このお礼は一生忘れません"とおもわず言ったような気がします。
港に帰ってグレを計ると47cmでした。
二人で30cmから47cmまでのグレを13枚釣りました。
私は5枚です。

この釣果は翌日の報知新聞に載りました。
遠く敦賀の釣具店の仲間たちも喜んでくれたようです。
まるで田舎の学校が初めて甲子園で1勝したような騒ぎです。(少し大げさか)
数々の困難を乗り越えての1匹だけに喜びもひとしおでした。
釣りには人生が凝縮されていると改めて思いました。
忘れられない1日でした。

翌日は勝浦に行ったのですが北風が強く釣りにならずに12時で早帰りしました。 
今回は充実した2日間の釣行となりました。
下山さんの仕掛けや竿さばきから色々勉強させていただきました。
また、機会がありましたら南紀に釣行したいと思います。

    47cmを釣った私            下山さんと私と当日の釣果 


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