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 上野山さんからのリポート
 「磯でカップヌードルを食べる

  神津島 (東京都)
   2016/04/24

 



昨年久しぶりに部屋の大掃除をしましたら、懐かしい釣りの本が出てきました。

それは、昭和39年に刊行されました西東社の「磯の大物釣り」という本です。
内容はイシダイ、カンダイなどを対象にしました底物釣りの入門書です。
私の父親が昔、日本海で石鯛釣りをしておりましたので、自宅にあったのだろうと思います。私は小学生の時に初めてその本を読んだように思います。 

私が子供の頃投げ釣りを始めたときに、自宅に20号程度のナツメ型の中通しのオモリがたくさんありました。
小学生の私はそのオモリを使ってキスの投げ釣りをしておりました。

家には釣りの道具入れにオモリが4,50個あったように思います。
幼いながら、私はなぜうちにはこんなにオモリがあるのだろうと思っておりました。
そのオモリは、父親が石鯛釣り用に鉛を溶かして、型に流し込んで作っていた自作のオモリだと後で知りました。
今考えると、私の父親も相当な釣りキチだったのだろうと思います。
夕方、父親が大きなカンダイを釣って帰ってきて、近所の釣り好きの人の家に見せに行っていたことをぼんやりと覚えております。 

「磯の大物釣り」の最後のほうには筆者の釣行記がありました。
その中には神津島の釣行記もありました。
島の中の峠道を、竿と道具とリュックサックに入れたサザエを担いでフウフウ言いながら釣り場まで歩くといったような話でした。
子供のころ、石鯛がよく釣れる神津島とはどういう島なのだろうと想像をしておりました。

 
西東社の アングラーシリーズNo22 新技法による 磯の大物釣り この時点でシリーズはNo40まであるようでした。


話は変わります。

前回の四国武者泊釣行で90cmのアオブダイを釣り上げた写真をA3のコピー用紙にプリントしまして、いつものサンスイ釣具店に持っていきましたら、ご主人がそれを入り口の冷蔵庫の扉に張り付けましたので、いやがうえにも目立ちます。
レジで代金を払うお客様もつい目が行ってしまいます。
「こりゃ大きいなと、これを見た人は感心していますよ」というご主人の言葉を聞いて、フーンそうですかと私は平静を装いながらも、顔がにやけてくるので下を向かねばならないような状態でした。 

ある日、サンスイ釣具店に遊びに行きましたら「オッ、ブダイの先生がおるね」と言ってサンスイ釣具店の元従業員のFさんが入ってきました。
Fさんは私よりも2歳年上の方です。
2011年のぐれねっと釣行記No161「借りは返して充分おつりが来た、2日目」という御五神の釣行記に一度だけ出てきます。 

Fさんといろいろ話をしておりましたら、釣り人生もラストスパートに入ってきたので1月は一人で男女群島に行ってきたということです。
「男女では50cmほどのオナガグレは釣ったよ、ここ数年で神津島にも3回行って銭洲にも行っているよ」ということです。
「男女は夜に磯に泊まって釣るのでよういかんけれども、神津島は一度行ってみたいな。大きいオナガグレが釣れるのでしょう」と言いましたら「オオバンのオナガが釣れるかどうかは行ってみないとわからんけれども、行く気があるのなら釣れて行ってやるよ」という話になりました。 

私は大型アオブダイの次こそは、大型のオナガグレが釣れる順番だと密かに思っておりましたので、このサンスイ釣具店で偶然出会ったFさんとの縁を大事にしようと思いました。
これはリリースしましたアオブダイが、次は大型オナガの番だと導いてくれたのではないかと思うほどでした。

翌日Fさんから電話があり、スケジュールを調整しましたところ4月24日出発の2日釣りということになりました。
ひょんなことから、子供のころから釣行記を読んで想像してきました神津島への釣行が決まりました。
60cmのオナガグレが釣れる神津島というイメージが膨らみ、私は早くも帰りの渡船のクーラーの中には60cmのオナガグレが入っている妄想に取りつかれてしまいました。 

ここまで、いつも以上に前置きが長いなと思った読者の方は、これは神津島までいって「やってしまった」のかと勘繰られる方もいるかと思いますが、今回は2日間通してでは、かろうじてボーズではありませんでしたので、あらかじめおことわり申し上げます。 

さて4月の天気予報はめまぐるしく変わり、1週間前から天気図とにらめっこをして、よし行けると思ったり、低気圧が意外と早く接近して、これはだめだとため息をついたりしておりました。
釣行の3日前では、これはダメかもしれないという話でしたが、前日には北東の風が吹くけれどもなんとか2日間できそうだということになりました。 

前日にFさんが電話で出船の確認をしてから、夜の8時にサンスイ釣具店で待ち合わせて私の車で下田に向けて出発いたしました。
敦賀から下田までは北陸自動車道、名神、新東名と乗り継いで5時間と少しの予定です。
四国に行くよりは2時間ほど近いということになります。

車の中では釣談義をずっとしておりました。
ところが、二人で夢中で話しているうちに、新東名の長泉沼津のインターを通り越してしまい、御殿場を通り過ぎてから通り越したことに気が付きました。
結局次の大井松田インターで引き返しましたので90kmほど余計に走りました。
50分ほどのロスですので、なんとか間に合いそうですが、かなり出船ぎりぎりになるのではないかと冷や汗が出ました。
そんなこんなで我々は下田港の賀寿丸(かずまる)渡船の乗船場に出船20分前に何とか滑り込みで到着いたしました。 

賀寿丸は大きな船で30人近くは横になって乗れそうです。
着いてしばらくして荷物の積み込みが始まりました。
私は初めてで要領を得ないので後ろのほうにいましたが、常連の方が各自の大荷物を船倉に入れているようです。
我々の荷物も手渡しして入れてくれました。
これで、神津についたときに竿ケースや磯クーラーが濡れているということはないようです。
ハードクーラーは揺れて移動しないように甲板に固めて置いておくようです。
我々のクーラーはロープで固定してありました。 

道具を積み終わりますと、やがて渡船は定刻通りに4時前に下田を出港しました。
我々は船内の狭いベッドに横になりました。
何とか寝返りは打てますが、すぐ頭の上が天井ですので普通に起き上がろうとしますと頭を打ってしまいます。
疲れていましたのですぐに眠りましたが、船の揺れで目が覚めてしまいました。
時計を見ますとまだ出船してから40分ほどしかたっていません。
確か島まで1時間半ほど時間がかかるように思いましたので、これは船に酔いそうだなと思いました。
胸が悪くなる思いをしながら「オナガ釣りはホンマに試練が伴うものだ」と思いました。

1時間が過ぎてもう限界に近いと思いましたら船のスピードが落ちます。

海が荒れていなかったためか、船は1時間20分ほどで神津島に到着したようです。
釣り客の皆さんは堤防に上がって話をしています。
我々も堤防に上がりました。
陸に足がついて、なんとか生き返ったような気持ちになりました。
しかし、体は船に揺られてフワフワした感じです。
堤防の上では今日は大会が入っているということで、クラブの釣り人が磯渡しの順番を決めているようです。

 
やっと神津島に到着しました 当日はガマのクラブの大会が入っていました この時は朝5時半頃です

我々は予約した時から最後に渡すことになると言われていましたので気楽です。
まあ、ここまでくればオナガは釣れるとこの時まで信じておりましたが、この人数がすべて50cmのオナガを釣ればオナガがいなくなるのではないかなどと、寝ぼけた頭で考えたりしておりました。
殆どの皆さんは日帰りのようで最初から釣りの服装ですが、我々は泊りですので船の中で着替えをいたしました。
神津島を6時に各渡船が一斉に出るということですので、6時まで港で待っているということでした。
6時20分ほど前に宿に泊まっていた釣り人が合流して、ようやく釣り人が船に乗り込み船倉から荷物を出します。

6時になり船は恩馳(オンバセ)に向かいます。
ここで8人ほどを下して島に戻り、島の地磯に2,3人ずつ下します。
この後船は残った10人ほどの釣り人を乗せて祇苗(タダナエ)に向かいます。
Fさんも祇苗には上がったことが無いと言っております。

我々は最後まで船に残り、祇苗の「オネイモ」という磯に上がりました。
ここは平たい段のようになっていて、非常に足場の良い磯です。
上がった時が満潮でしたので、道具を高いところに置いて、波に注意するようにポーターの方から言われました。
ガイドブックでは「オネイモ」は60cmのオナガグレが期待できるとありましたので、私の期待は膨らむ一方です。 

今日の仕掛けです。
竿はガマのグレスペシャル2号に、道糸ハリス共に4号をサルカンで結びます。
リールはシマノのレバーブレーキ付の4000番です。
ウキは釣研の3Bのウキを使いました。
サルカンの下に3Bのオモリを着けます。
ハリはオーナーのザ・ROCKの8号としました。
ウキ下は2ヒロ半でスタートいたします。 

今日はFさんの勧めで生オキアミを3枚持ってきました。
私は生オキアミですと手が荒れますので着けエサはボイルとしました。
エサ取りが多くて遠投しなければならない時もあるということで、ダイワの集魚剤、5倍増グレも持ってきました。

足元にマキエを打ちますと速い流れで右に流れます。
我々は大きな磯の中央に乗っていますので、これでは右端の釣り人にマキエをしてあげているような感じになります。
ウキが速い速度で流れていくのを見て、ふと、これは潮が緩まないと釣れないのではないかと思いました。

足元に落としたウキは30mほど流れて隣の磯から出ているサラシに押されて沈んでいきます。
そのあたりがポイントになると思いましたが一向にアタリは出ません。
オナガグレのアタリに備えてリールはフリーでレバーを握った状態でウキを凝視いたしますが、ウキはサラシまで沈むことはありません。
最初はエサが着いたまま上がって来ます。
ウキ下を少し下げますが、エサは付いてきます。 

Fさんにどうやって釣ればいいかと聞きますと、流れが速いのでウキを沈めてはどうかと言います。
私はハリスにジンタンを2個打ち、さらにサルカンの下にBのオモリを打ち、ウキが沈むように調整いたしました。

足元から流し始めましたウキは、仕掛けが馴染みますと沈み始めます。
これはいい感じだ、早く一気にウキが見えなくなるアタリが来ないかなと構えますが、何回流してもアタリは出ません。
たまに着けエサが取られます。
ウキ下を変えようかとFさんにタナを聞きますと、Fさんは4ヒロまで落としているようです。
私も一ヒロほどタナを深くしました。 

しかし、沖に投げても足元にウキを落としてもアタリは出ません。
8時をすぎて日が当たり海を覗きこみますと、足元から切れているかと思いました我々の磯の足元は、もう一つ段になっていて浅くて底が見えます。
これでは、足元は釣りにならないようです。
しかも、沖で掛けたとしても足元の出ている段になったところをかわさないと魚は獲れないようです。
これは、釣るのが難しい磯です。


 
オネイモの左側で竿を出すFさん


10時ごろになり、見回りの船が来ました。

「どうですか。釣れましたか」と聞かれて、「なにも釣れないし、エサも取られない」とFさんが答えますと、「他の磯ではタカベで釣りにならないところもあります。エサが取られないのならここで頑張ってみては」と船長に言われて、Fさんは磯変わりしようかと思っていたようですが「ここで最後までやります」と答えました。
「昨日は昼ごろから潮が緩んでイサキなどが釣れましたよ、3時半ごろに迎えに来ます」と望みをつなぐアドバイスを我々に残して船は去っていきました。


 
見回りに来た賀寿丸 船には「DREAM CHALLENGER」の文字がある

10時半頃になり私のウキが潮に押されて沈んで見えなくなりました。
道糸が張ったような気がしましたので合わせますと魚が掛かっていますがそう引きません。
ゆっくりとあまり抵抗もせずに上がって来ましたのは35cmほどのイガミです。
これはリリースいたしました。
エサが海底近くまで入って行ってイガミが食ったのだとしますと、中層には目当てのグレはいないのではないかと思われました。
前日から私はあまり寝ていませんでしたし、磯に上がってからは大物のアタリもないので眠くなってきました。

 
神津島で初めて釣れた魚はイガミでした

私は少し休憩をしようと思いました。
Fさんが磯でカップヌードルを食べようと言っていたことを思い出し、「カップヌードルを食べます」と声を掛けますとFさんも食べるようです。
Fさんは1月に男女群島に行ったときに、磯にガスコンロを持って行っていろいろ暖かいものを食べて、これはいいということで今回もコンロを持って来ていました。
風が強いので磯クーラーでコンロを囲ってお湯を沸かしました。
「これは潮が緩むまではアカンな。こんなに釣れない神津島は初めてだ」とFさんが言います。

 

磯でカップヌードルを食べる これが初日で一番楽しかったことかもしれない


カップヌードルを食べますと私は眠くなりましたので少し座ったまま眠りました。

11時半ごろに釣りを再開いたしますが、相変わらずエサも時々しかとられませんし、アタリはありません。
2号の竿が重いので私はアテンダーUの1.5号に換えて、道糸も3号にしました。

12時を過ぎて潮が少しゆるくなってきましたらFさんにアタリがあり竿が曲がっています。
Fさんが釣り上げましたのは35cmほどのサンノジです。

私も足元を流していたウキが入り、あまり引かない魚が掛かりました。
またイガミかと思いましたがこの魚は重くてなかなか上がって来ません。
水面に姿を現したのはイシガキフグです。
「おい、重いのでタモを入れるときに注意しろ」とFさんが言います。
タモを入れますとそう大きくはありませんがすごい重さの魚です。
私はこの魚を釣るのは初めてでした。
フグと言いますと昨年末は、さんざんハリを取られ、しまいには親指を噛まれたりして、私にとってはニクイ魚ですが、このイシガキフグは何とも愛嬌のある魚でした。


 

初めて釣り上げたイシガキフグ


その後、右隣の釣り人にはイサキがよく釣れているようですが我々にはなにも釣れません。
2時前には北東の風がきつくなり、白波が立ってきました。
我々が磯に上がりました時刻は7時半頃で、渡船を開始してから1時間ほどしてからでした。
帰りは最後に迎えに来るということで、見回りの時には3時半頃になるということでしたが、風がきつくなってきましたので3時前に船が来ました。
3時半の迎えだと思っていましたので、我々は道具を片付けていませんでした。

「この磯は風が当たらないので分からないかもしれないけど、風が強くて危ない磯もあるからそっちを回ってから迎えに来ます」と船長がマイクで言って、船は他の磯の釣り客を回収に行きました。
30分ほど磯で待って我々が最後に船に乗りますと、5分ほど走って船は多幸湾側の堤防に着けました。

今日、島に泊まるのは我々2人だけのようです。
堤防に止めてある渡船屋の軽自動車に道具を積んで、我々は島の反対側にあります、朝に船を着けました前浜港の渡船の宿屋に行きました。
宿につきますと「今日、お風呂は島の温泉に行くか宿の風呂にしますか」と奥さんに聞かれます。
Fさんが一度温泉に行ってみたいと言っていましたので我々は車で温泉に行くことにしました。

港から5分ほどのところに神津島温泉保養センターという立派な温泉施設があります。
これは、観光客向けに建てられたのではないかと思いました。
入浴料金は800円で、お湯は黄色く濁っていて肌がつるつるになるような温泉でした。 

30分ほど風呂に入ってから宿に戻りますと食事の支度ができていました。
オカズはイサキの焼き物やカツオの刺身など食べきれないほどの量でした。

「今日はボーズだったけれども明日に期待ということだね。明日は月曜日なのでお客さんは少ないだろうからいい場所に上がれると思うよ」とFさんが言います。
これが1日だけの釣りでしたら神津島まで来てボーズで帰ることになりますが、2日釣りですので明日も釣れます。
私は60cmの尾長グレはもういいので、なんとか明日は30cmでもいいからグレの顔が見られれば良いと思いました。
「イスズミでもいいから50cmの魚が掛かってほしかったわ」とFさんがいいます。
何とも悔しい結果の初日でありました。 

部屋に戻って我々は7時過ぎには布団に入って寝てしまいました。
布団に入ってから、賀寿丸の船体に書いてあった「DREAM CHALLENGER」を思い出しました。
オナガグレにチャレンジすることは誰でもできるけれども、60cmのオナガを釣ることは「選ばれた釣人でないとできることではない」ということを思い知りました。

今日良かったことは、無事に神津島まで来たことと、磯で食べたカップヌードルがおいしかったことでしょうか。

 


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